1956年公開の映画『八十日間世界一周』は、その年の映画界を大いに沸かせました。
翌年に開催された第29回アカデミー賞では、作品賞をはじめとした主要5部門を受賞し、当時としては異例の快挙を成し遂げました。
この記事では、『八十日間世界一周』がどのようにしてアカデミー作品賞を受賞したのか、その背景や当時の映画界の状況、第29回授賞式の舞台裏に迫ります。
- 『八十日間世界一周』が作品賞を受賞した理由
- 第29回アカデミー賞での他部門の受賞内容
- 映画のあらすじと1950年代の時代背景
第29回アカデミー賞で『八十日間世界一周』が作品賞を受賞した理由
1957年の第29回アカデミー賞では、『八十日間世界一周』が栄えある作品賞を受賞しました。
この作品は計8部門にノミネートされ、そのうち作品賞・脚色賞・撮影賞・編集賞・音楽賞の5部門で受賞という快挙を成し遂げました。
なぜこの作品がこれほどまでに高く評価されたのか、その理由をひも解いていきましょう。
主演俳優のノミネートなしでの受賞という異例の快挙
『八十日間世界一周』の最大の特筆点のひとつは、主演俳優がアカデミー賞にノミネートされていなかったにもかかわらず、作品賞を獲得したという点です。
これはアカデミー賞の歴史の中でも非常に稀なことで、俳優の演技力よりも、映画全体の構成力や演出、脚本、映像美といった「作品力」が評価されたことを示しています。
主演のデヴィッド・ニーヴンやカンティンフラスも高評価を受けていましたが、賞には届かず、それでも映画は頂点に立ったのです。
豪華なロケーションと映像技術が評価された背景
もう一つの大きな受賞理由は、当時としては斬新だった映像技術と、世界各地を舞台にした壮大なロケーションです。
実際に13カ国をまたいで撮影されたこの作品は、視覚的な旅の楽しさを観客に強く印象づけました。
カラー撮影賞を受賞したライオネル・リンドンの手腕が光り、異国情緒あふれる映像が、まるで観客自身が世界を旅しているかのような没入感を演出しました。
時代背景とエンターテインメント性の融合
1950年代はハリウッドがスペクタクル映画に力を入れていた時代であり、その中でも『八十日間世界一周』は特にその流れにマッチしていました。
豪華キャストのカメオ出演(フランク・シナトラなど)や、トッド=AO方式という当時最新のワイドスクリーン技術が、観客に新たな映画体験を提供しました。
こうした総合的な娯楽性と技術革新が作品賞受賞の決め手となったのです。
『八十日間世界一周』が受賞したその他のアカデミー賞部門
『八十日間世界一周』は第29回アカデミー賞において、作品賞以外にも複数の部門で高く評価されました。
その受賞歴からは、ストーリーや演出にとどまらず、技術面や芸術面でも当時の最高水準にあったことがうかがえます。
ここでは、具体的にどの部門で受賞したのか、またその背景について詳しく見ていきます。
脚色賞・撮影賞などを含む計5部門での受賞
本作は脚色賞(Adapted Screenplay)をジェームズ・ポー、ジョン・ファロー、S.J.ペレルマンの3名が共同で受賞しました。
ジュール・ヴェルヌの原作を、テンポよく軽妙な冒険活劇に仕上げた脚色は高く評価されました。
さらに、カラー撮影賞を受賞したライオネル・リンドンによる映像美も、作品の魅力を大きく引き立てました。
音楽賞ではヴィクター・ヤングが死後受賞
音楽賞(Music Score of a Dramatic or Comedy Picture)を受賞したのは、ヴィクター・ヤングです。
彼は授賞式の前に亡くなっており、この受賞はアカデミー賞史上でも稀な「死後受賞」として知られています。
ヤングの音楽は、世界を旅するというスケール感と冒険心を高らかに奏で、映画のリズムと感情の流れを見事に支えました。
編集賞も受賞、緻密な構成が光る
編集賞(Film Editing)はジーン・ルッジェーロとポール・ウェザーワックスの2名が受賞しました。
80日間の旅という長大な物語を、観客を飽きさせずテンポよく描いた編集の技術は、まさにプロの手腕の賜物です。
場面の切り替えやテンポ感が良く、各国の文化や情景をダイジェスト的に見せながらもドラマを失わない構成が高く評価されました。
第29回アカデミー賞授賞式の特徴と時代背景
『八十日間世界一周』が受賞した第29回アカデミー賞は、1957年3月27日にRKOパンテージズ劇場で開催されました。
この年の映画業界は、技術革新と国際化が進む中で、ハリウッドの娯楽性とスケールの大きさが特に重視された時代でした。
映画賞としてのアカデミー賞もまた、時代の映し鏡として大きく変化しつつあったのです。
1950年代映画界のトレンドとアカデミー賞の傾向
この時代のアメリカ映画界は、テレビの普及による観客離れを防ぐために、大作・超大作志向が強まっていました。
シネマスコープやトッド=AO方式といったワイドスクリーン技術、カラー映像、豪華な衣装やセットなどが観客を劇場に引き戻す要素として導入されていました。
その流れの中で、「世界一周」という壮大なテーマと映像美を兼ね備えた『八十日間世界一周』は、時代の潮流と完全に一致していたのです。
監督賞を受賞しなかった作品賞の珍しさ
『八十日間世界一周』の興味深い点は、監督賞を受賞しなかったにもかかわらず作品賞を獲得したことです。
監督のマイケル・アンダーソンはノミネートこそされていましたが、受賞したのは『ジャイアンツ』のジョージ・スティーヴンスでした。
これはアカデミー賞史においても非常に珍しいケースであり、作品の総合力がいかに突出していたかを物語っています。
国際色豊かな受賞作が目立った年
第29回では、フェデリコ・フェリーニ監督の『道(La Strada)』が外国語映画賞を受賞するなど、国際映画の存在感も高まりつつある年でした。
アカデミー賞が徐々に「アメリカ映画」だけでなく、世界の映画芸術を称える場へと広がり始めていた兆しが見えたのです。
その中でも『八十日間世界一周』は、国際的な舞台を題材にしたハリウッド映画の代表格として、まさに時代の象徴的存在だったといえます。
映画『八十日間世界一周』のあらすじと評価
映画『八十日間世界一周(Around the World in 80 Days)』は、フランスの作家ジュール・ヴェルヌによる同名小説を原作とした壮大な冒険映画です。
1956年に公開され、スケールの大きな映像と軽快なストーリーテリングが、当時の観客の心をつかみました。
ここではその物語の概要と、公開当時および現在における評価を詳しく紹介します。
ジュール・ヴェルヌ原作の壮大な冒険ストーリー
物語は、19世紀ロンドンの紳士フィリアス・フォッグが「80日間で世界一周できるか?」という賭けに挑むところから始まります。
フォッグは執事のパスパルトゥーを伴い、気球、汽車、船などさまざまな手段で世界を駆け巡ります。
道中ではインドでの救出劇、アメリカ西部での列車強盗など、スリルとユーモアに満ちたエピソードが次々と展開されます。
公開当時の興行成績と批評家の反応
公開当時、『八十日間世界一周』はアメリカ国内で約4,200万ドルの興行収入を記録し、1956年の年間興行収入第1位となりました。
批評家からも高評価を得ており、「目を見張る映像」「気品あるユーモア」「国際色豊かな演出」といった点が特に称賛されました。
特にカメオ出演の多さや、豪華なセット、衣装が観客を楽しませる要素として強く支持されました。
現代における評価と再発見
現代でも『八十日間世界一周』は、クラシック映画の金字塔として評価され続けています。
その一方で、CGを多用する現代映画と比べると、手作り感あふれる映像や、地理的な移動のリアリティが魅力とされ、再評価の機運も高まっています。
映画の持つ「旅のワクワク感」や「異文化への憧れ」が時代を超えて共感を呼んでいるのです。
『八十日間世界一周』のまとめ
『八十日間世界一周』は、1956年の公開以来、映画史において確固たる地位を築いた名作です。
第29回アカデミー賞では作品賞を含む5部門で受賞し、その年のハリウッドを象徴する作品として脚光を浴びました。
その受賞背景には、時代に合ったスケールの大きさ、革新的な映像技術、そして冒険心あふれるストーリーがありました。
映画史に残るクラシック作品としての価値
本作は、主演俳優のノミネートがないまま作品賞を受賞した稀有な例であり、それだけ「映画全体の力」が認められた証といえるでしょう。
また、脚色・編集・音楽といった「裏方」の技術も高く評価され、職人たちの創意工夫が光る作品として記憶されています。
ジュール・ヴェルヌの原作を忠実かつ魅力的に映像化した点でも、多くの映画人に影響を与えてきました。
今なお語り継がれる第29回アカデミー賞の象徴的な1本
アカデミー賞の歴史を振り返るとき、第29回の象徴として必ず名前が挙がるのが『八十日間世界一周』です。
その成功は、当時の映画界がどのような方向へ進もうとしていたのかを映し出す鏡でもありました。
今後も、映画ファンや研究者にとって、語り継がれるべき価値ある一本であることに変わりはありません。
- 『八十日間世界一周』は第29回アカデミー賞で作品賞を受賞
- 主演俳優のノミネートなしでの受賞という異例の快挙
- 脚色賞・撮影賞など主要5部門で受賞
- 音楽賞はヴィクター・ヤングが死後受賞
- 1950年代の技術革新と大作志向が背景に
- 監督賞は別作品が受賞という珍しい結果
- 原作はジュール・ヴェルヌの冒険小説
- 映画は世界13か国を巡る壮大な旅路を描写
- 当時の興行収入1位、今も評価される名作
- アカデミー賞史に残るクラシック作品の代表

