2022年、世界がパンデミックという共通の「沈黙」と対峙していたその年。静かに、しかし確かに、アカデミー賞という大舞台で人々の胸を打つ作品があった——『コーダ あいのうた』。それは、耳の聞こえない家族と、音楽を愛する娘の物語。第94回アカデミー賞で作品賞を受賞したこの映画は、多様性、家族、そして夢をテーマにした“見えない声”の映画だった。この記事では、なぜこの小さな物語が、世界一の映画として選ばれたのか。その裏側にある感動の真実に迫っていく。
- 『コーダ あいのうた』が作品賞を受賞した背景
- アカデミー賞における多様性と変化の象徴
- 作品に込められた家族愛と感動のメッセージ
『コーダ あいのうた』とは何か? 〜あらすじと作品背景〜
『コーダ あいのうた』(原題:CODA)は、「Child of Deaf Adults(ろう者の親を持つ子ども)」という言葉の略称をタイトルに冠した、シアン・ヘダー監督による感動作。
舞台はアメリカ・マサチューセッツ州の漁師町。主人公ルビーは、聴覚障がいを持つ両親と兄の中で、唯一「聞こえる」存在。彼女は早朝から家業の漁業を手伝い、家族の“耳”として生きてきた。しかし、学校の合唱クラブで歌の才能を見出された彼女は、音楽の道へ進むという夢を抱き始める。家族の期待と、自分自身の人生との間で揺れる彼女の姿は、観客の心を強く打つ。
この作品は、2014年のフランス映画『エール!』をベースにしているが、ただのリメイクにとどまらない。シアン・ヘダーは、アメリカの社会背景や、よりリアルなろう文化の描写を盛り込み、全く新しい作品として『コーダ』を作り上げた。
アカデミー賞受賞の詳細【第94回授賞式】
2022年3月27日、第94回アカデミー賞にて、『コーダ あいのうた』は作品賞、脚色賞、助演男優賞の三冠に輝いた。特に注目されたのは、助演男優賞を受賞したトロイ・コッツァー。彼はアカデミー史上初の聴覚障がいを持つ男性俳優としてオスカー像を手にし、その瞬間、観客席では多くの人が手話で拍手を送った。
そしてもう一つ特筆すべきは、本作がApple TV+によって配信された、いわゆる“ストリーミング作品”であったという点。これまで劇場公開が当たり前だったアカデミー賞の常識を覆し、配信プラットフォームが映画界の新たな覇者になり得ることを証明した。
『コーダ あいのうた』が選ばれた理由
1. 多様性とインクルージョンの体現
アカデミー賞は近年、「#OscarsSoWhite」などの批判を受け、多様性の重視に舵を切ってきた。『コーダ』は、その流れに完璧に応えた作品だった。ろう者の俳優が主要キャストを務め、手話が劇中の主要な“言語”として機能している。これは単なる“表現”ではなく、“存在”の肯定だった。
2. 感情を揺さぶるストーリーテリング
物語の中で描かれるのは、「聞こえる/聞こえない」の二元論ではない。音楽を愛し、しかし音を共有できない家族との間にある“沈黙”の時間——それは、言葉以上に雄弁だった。父が娘の歌を“触れて”感じようとするあのシーンは、何度見ても涙が止まらない。『コーダ』は、「声にならない声」を、まるで詩のように伝えてくる。
3. 配信という形の未来性
Apple TV+というプラットフォームから配信された『コーダ』は、コロナ禍で加速した“非劇場型映画”の象徴でもあった。劇場に行けない状況でも、誰かの心を救う映画は、スマートフォンやPCの画面からでも生まれる。その事実に、アカデミーが正式に頷いた瞬間だった。
受賞スピーチに込められた“もうひとつの物語”
トロイ・コッツァーのスピーチは、アカデミーの歴史に新たな風を吹き込んだ。
「これはろう者の、コーダの、障がい者のコミュニティに捧げます。これは私たちの瞬間です。」
手話で語られる言葉の一つひとつが、まるで映画のワンシーンのように鮮烈だった。シアン・ヘダー監督もまた、「この物語を“聞いてくれる”人たちがいてくれたことが、私の希望です」と語った。
この作品を通して伝えられたのは、“伝わらないこと”の痛みではなく、“伝えようとすること”の尊さだった。
まとめ:この作品が私たちに問いかけるもの
『コーダ あいのうた』は、ただ感動的なヒューマンドラマではない。それは、「聞こえないからこそ、見えているものがある」という逆説の証明であり、「違いは、愛のかたちを豊かにする」という優しい宣言だった。
私たちは時に、家族であっても、友人であっても、“本当の声”を交わすことが難しい。けれど、たとえ言葉にできなくても、目を見つめ、手を差し伸べ、隣に座ることはできる。映画がその方法を教えてくれる。
『コーダ』の受賞は、映画というものが「観る」だけでなく、「感じる」ものであることを改めて世界に示した。見えない声を、静かに、そして力強く届けるこの作品は、これからも誰かの孤独に寄り添い続けるだろう。
まだこの映画を観ていない人がいるなら、どうか静かな夜に、イヤホンを外して観てほしい。
音のない愛が、あなたの胸に語りかけてくる。
- 『コーダ あいのうた』は第94回アカデミー賞作品賞を受賞
- ろう者の家族と“聞こえる娘”の絆を描いた感動作
- 多様性・包摂性の象徴として高く評価された
- トロイ・コッツァーが史上初の聴覚障がい男性俳優として助演男優賞受賞
- Apple TV+配信作品として初の作品賞受賞を達成
- 感動的なスピーチが映画のメッセージをさらに深めた
- 「音のない愛」を描いた静かで力強いストーリー

